朝にお茶を淹れる。休憩にコーヒーを飲む。外出先で缶入りの飲料を買う。
身近なこれらの習慣には、カフェインという成分が関わっています。ただし、人が茶やコーヒーを飲み始めたときから「カフェインを何mg摂る」と考えていたわけではありません。植物を食べたり飲んだりする歴史が先にあり、その中の成分を科学的に取り出す歴史が後から続きます。
この記事では、その二つを分けながら、茶・カカオ・コーヒーから、ショカコーラ、エナジードリンク、カフェインガム、カフェイン配合錠剤、パウチまでをたどります。食品の歴史に加え、カフェインを使った医薬品にも触れ、形と製品の区分を整理します。
この記事で分かること
- カフェインを含む植物の利用は、成分の発見よりもずっと古い。
- カカオや茶の考古学的な痕跡はあるが、人類が初めてカフェインを摂った年は特定できない。
- カフェインは1819年にコーヒーから分離され、現在は飲料・菓子・ガム・パウチや医薬品などに使われる。
- 同じ成分を含んでいても、食品と医薬品では区分や使い方が異なる。
図で見る:カフェインを含む製品の形
「飲む」だけでなく、「食べる・噛む」「口に含む」「錠剤を服用する」という形もあります。下の図は形と区分の整理です。国や製品によって区分は異なるため、実際の判断は製品表示で確認します。
- 飲料の食品飲む
茶・コーヒー・缶コーヒー・エナジードリンク
- 菓子・ガムの食品食べる・噛む
ショカコーラ・カフェインガム
- パウチの食品例口に含む
コーヒーパウチ・カフェインパウチ
- 医薬品・医薬部外品の例錠剤を服用する・ドリンク剤を飲む
カフェイン配合錠剤・リポビタンD(日本の例)
表形式で見る
| 分類 | 摂り方 | 主な例 |
|---|---|---|
| 飲料の食品 | 飲む | 茶・コーヒー・缶コーヒー・エナジードリンク |
| 菓子・ガムの食品 | 食べる・噛む | ショカコーラ・カフェインガム |
| パウチの食品例 | 口に含む | コーヒーパウチ・カフェインパウチ |
| 医薬品・医薬部外品の例 | 錠剤を服用する・ドリンク剤を飲む | カフェイン配合錠剤・リポビタンD(日本の例) |
図の区分は形だけで決まりません。錠剤やドリンク剤は各製品の表示に従って使用するものです。食品として売られるエナジードリンクと、日本の医薬品・医薬部外品のドリンク剤も区別して読みます。
カフェイン摂取の歴史を年表で見る
- 約5300年前現在のエクアドルでカカオ利用の痕跡
- 約2100年前中国・前漢期の墓から茶の痕跡
- 1211年栄西の『喫茶養生記』初治本が成立
- 15〜16世紀イエメンなどでコーヒーの栽培・交易が広がる
- 17世紀ヨーロッパで茶・コーヒーの文化が広がる
- 1819年ルンゲがコーヒーからカフェインを分離
- 1930〜1950年頃カフェインを配合した錠剤の資料が残る
- 1935年ベルリンでSCHO-KA-KOLAブランドが成立
- 1936年ショカコーラが発売される
- 1962年日本でリポビタンDが発売される
- 1969年UCCがミルク入り缶コーヒーを発売
- 1987年Red Bullがオーストリアで発売される
- 1999年リポビタンDが指定医薬部外品へ移行
- 2002年カフェインガムとカプセルを比較した研究が公表
- 2009年コーヒーパウチのGrindsが事業を開始
- 現代飲料・菓子・ガム・パウチ・錠剤などが並存
表形式で見る
| 時期 | 主な出来事 | 証拠の種類 |
|---|---|---|
| 約5300年前 | 現在のエクアドルでカカオ利用の痕跡 | 考古学研究:デンプン粒・残留物・DNA |
| 約2100年前 | 中国・前漢期の墓から茶の痕跡 | 考古学研究:植物の残りと成分の分析 |
| 1211年 | 栄西の『喫茶養生記』初治本が成立 | 博物館の解説:文献の成立年 |
| 15〜16世紀 | イエメンなどでコーヒーの栽培・交易が広がる | 業界団体の歴史解説 |
| 17世紀 | ヨーロッパで茶・コーヒーの文化が広がる | 博物館の解説:交易と器の歴史 |
| 1819年 | ルンゲがコーヒーからカフェインを分離 | 化学史の解説:成分の分離 |
| 1930〜1950年頃 | カフェインを配合した錠剤の資料が残る | 博物館収蔵品の推定年代。発売年ではない |
| 1935年 | ベルリンでSCHO-KA-KOLAブランドが成立 | メーカーの沿革:ブランド成立年 |
| 1936年 | ショカコーラが発売される | メーカーの沿革:1935年の翌年に発売 |
| 1962年 | 日本でリポビタンDが発売される | メーカーの沿革:当時は医薬品のドリンク剤 |
| 1969年 | UCCがミルク入り缶コーヒーを発売 | メーカーの公式記録:1969年4月 |
| 1987年 | Red Bullがオーストリアで発売される | メーカーの沿革:1987年4月1日 |
| 1999年 | リポビタンDが指定医薬部外品へ移行 | メーカーの沿革:日本での区分の変更 |
| 2002年 | カフェインガムとカプセルを比較した研究が公表 | 研究論文:製品の発売年・発明年ではない |
| 2009年 | コーヒーパウチのGrindsが事業を開始 | メーカーの記録:一企業の事業開始年 |
| 現代 | 飲料・菓子・ガム・パウチ・錠剤などが並存 | FDAの食品解説・SS製薬の医薬品表示 |
古代の年数は研究が扱う遺物や年代の目安です。食品の利用が確認された時期と、人類が初めてその食品を口にした時期は同じではありません。錠剤資料の年代幅は他の項目と重なります。ブランド成立・発売・研究発表・事業開始は別の出来事であり、年表は各カテゴリーの「世界初」を示すものではありません。
古代:カフェインという名前より先に、植物の利用があった
カフェインはコーヒーだけにある成分ではありません。茶やカカオ、マテ、ガラナなど、複数の植物に含まれます。古い食品の痕跡を調べるときにも、植物の形や残った成分、DNAなどが手がかりになります。茶の考古学研究(Luら、2016年)では、カフェインだけでなくL-テアニンなども使って茶の痕跡を検討しています。
約5300年前のカカオ利用
Zarrilloらの研究(2018年)は、現在のエクアドル南東部にあるサンタ・アナ・ラ・フロリダ遺跡から、約5300年前のカカオ利用を示す証拠を報告しています。手がかりはカカオのデンプン粒、テオブロミンの残留物、古代DNAでした。
カカオにはカフェインとテオブロミンという別の成分が含まれます。この二つは同じ物質ではありません。Lanaudらの研究(2024年)も、古い器の残留物とDNAから、南米でのカカオ利用の広がりを調べています。
ただし、カカオを利用した証拠だけで「カフェインを摂るために飲んだ」「何mg摂っていた」とは言えません。 現代のチョコレートと同じ製法や食べ方だったとも限らず、当時の利用目的や具体的な摂取量には分からない点が残ります。
約2100年前の茶の痕跡
Luらの研究(2016年)では、中国・西安の漢陽陵などから出土した植物の残りを分析し、約2100年前の茶の利用を示す証拠を報告しました。西チベットの遺跡の分析も、茶が遠くへ運ばれていた可能性を示しています。
これは古い茶の利用を考える重要な資料ですが、「人類が茶を初めて飲んだ日」を記録したものではありません。また、古代の淹れ方や一杯の量を、現代の緑茶とそのまま同じに扱うこともできません。
日本:茶の文献に残る飲用文化
日本の茶の歴史をたどる文献の一つが、栄西の『喫茶養生記』です。入間市博物館の解説資料によると、1211年成立の初治本と、1214年の再治本があります。中国で見聞した製茶法や、茶の粉末に湯を加える飲み方などが記されています。
当時の書物には、茶の効用について当時の思想や知識に基づく説明もあります。それは茶がどう理解されていたかを知る歴史資料です。書物に記された効用を、現代の食品やカフェイン製品の効果の証拠として使うことはできません。
茶の文献は、成分名が知られる以前から、人が植物の加工法、器、飲み方を工夫してきたことを伝えています。
15〜17世紀:コーヒーと茶が地域を越えて広がる
コーヒーの伝説と、栽培・交易の歴史
コーヒーの起源として有名なのが、エチオピアのヤギ飼いカルディの物語です。ヤギがコーヒーの実を食べた様子に気づいた、という話ですが、全米コーヒー協会の歴史解説もこれを伝説として紹介しています。最初の発見者を確定する史料として扱うものではありません。
同協会の解説では、15世紀には現在のイエメンでコーヒーが栽培され、16世紀にはイラン、エジプト、シリア、トルコなどへ広がったとされています。コーヒーハウスは飲む場所であると同時に、会話や情報交換の場にもなりました。
ここで見えてくるのは、カフェインという成分だけの歴史ではなく、飲み物を囲む人の習慣と、それを運ぶ交易の歴史です。
ヨーロッパの茶とコーヒー
英国ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の解説では、17世紀前半に海上交易を通じて茶がヨーロッパへ伝わり、当初は高価な品だったことが紹介されています。コーヒーも17世紀半ばには英国へ届いており、初期のティーポットとコーヒーポットには似た形が見られます。
食材と一緒に、器や作法も移動していきました。こうした広がりには交易会社や帝国の活動も関わっており、飲み物の普及は経済や社会の歴史ともつながっています。
1819年:カフェインがコーヒーから分離される
茶やコーヒーが利用されてきた歴史に比べると、カフェインを一つの成分として取り出した歴史は新しいものです。
化学教育サイトMediachimieの解説によると、化学者ルンゲは1819年にコーヒーからカフェインを分離しました。
「カフェインが発見された年」として1819年が挙げられるのは、このような成分の分離を指します。その年まで人がカフェインを摂っていなかった、という意味ではありません。
それ以前にも茶やコーヒーを通じて摂っていた成分を、飲み物全体から分けて調べられるようになった。この違いを押さえると、食品の歴史と化学の歴史を混同せずに読めます。
20世紀以降:飲む・食べる・噛むという広がり
カフェイン配合錠剤:医薬品として残る資料
英国のScience Museum Groupの収蔵資料には、1930〜1950年頃の「フェナセチンとカフェインの錠剤」の瓶があります。これはカフェインを配合した複合医薬品の資料で、カフェイン単独錠剤の発明年や最初の発売年を示すものではありません。
現在の日本の例では、エスタロンモカ12のメーカー表示は「第3類医薬品」とされています。カフェイン錠剤はお菓子とは異なり、製品ごとの用法・用量に従うものです。歴史上の複合錠剤と、現在販売される製品の成分や使い方が同じとは限りません。
ショカコーラ:カカオ・コーヒー・コーラナッツを使った菓子
SCHO-KA-KOLA(ショカコーラ)は、赤い丸缶で知られるドイツのチョコレートです。メーカーの公式沿革によると、1935年にベルリンでブランドが成立し、翌1936年に発売されました。ブランドの成立年と商品の発売年を分けて読む必要があります。
カカオ、コーヒー、コーラナッツを使う菓子で、「飲む」以外にカフェインを含む食品を「食べる」例です。ここでいうコーラナッツは植物の実で、コーラ飲料のことではありません。
ドリンク剤と缶コーヒー:日本での包装・販売の変化
リポビタンDの公式沿革では、1962年に医薬品として発売され、1999年に指定医薬部外品へ移行したことが紹介されています。同じ瓶入りの飲み物でも、食品として売られるエナジードリンクと区分が同じとは限りません。
飲み方の変化が分かる日本の例に、缶コーヒーがあります。UCCの公式資料では、1969年4月に「UCCコーヒーミルク入り」を発売したことが紹介されています。
その場で淹れるだけでなく、製造・包装された飲料を持ち運べるようになる。缶入りの飲料は、その変化を表す一例です。ただし、容器が変わっただけでカフェイン量が同じになるわけではなく、商品や容量によって異なります。
エナジードリンク:1987年のRed Bull発売を一つの節目に
Red Bullの公式沿革は、1987年4月1日のオーストリアでの発売を記録しています。これは一ブランドの発売記録であり、カフェイン入り飲料全体がこの年に発明されたという意味ではありません。
茶やコーヒーに加え、カフェインを配合した飲料が商品として流通するようになった例です。米国NCCIHの資料では、エナジードリンクに含まれる量には幅があることが説明されています。缶の見た目や名称だけで量を判断することはできません。
カフェインガム:噛む形も研究の対象に
カフェインガムは、カフェインを配合したチューインガムです。Kamimoriらの2002年の論文では、ガムとカプセルを使ったカフェイン摂取を比較しています。年表の2002年は研究発表年であり、ガムの発明年や最初の発売年ではありません。
飲料・ガム・錠剤では、製品の形や使い方が異なります。一つの研究結果をすべての商品に広げて、効果や吸収の優劣を断定することはできません。米国FDAの解説も、飲料以外の食品にカフェインが添加される場合があることを示しています。
形の選択肢が増えると、「コーヒーを何杯飲んだか」だけでは、その日に摂った量を把握できない場合があります。食品の名前や形ではなく、表示された量と、ほかの食品も含めた合計を確認することが大切です。
現代のカフェインパウチは、食品の形の一つ
カフェインパウチは、コーヒーなどのカフェインを含む原料や、カフェインを配合した粉末などを小さな袋に入れ、口に含んで使う形の製品です。袋ごと食べる菓子や、噛むガムとは使い方が異なります。中身・量・使い方は製品ごとに確認します。
コーヒーを使ったパウチの一例にGrindsがあります。同社の事業紹介は2009年の事業開始を記録しています。公式FAQでは、コーヒー入りの小袋を口に入れて使う形が説明されています。この記録は一企業の沿革であり、あらゆるカフェインパウチの起源を特定するものではありません。
これは、古代の茶やカカオから一直線に進歩してきた「歴史の到達点」という意味ではありません。飲み物には味や香り、温度、飲む時間の楽しみがあり、パウチには別の形と使い方があります。
古くから利用されてきた成分であっても、すべての人に適しているとは限りません。歴史の長さを安全性の保証にせず、製品表示と体質に合わせて判断してください。基本の使い方はカフェインパウチとは?、摂取量の確認はカフェインの1日の目安も参考になります。
よくある質問
人類はいつからカフェインを摂っていますか?
最初の年や人物は特定できません。約5300年前のカカオ利用など、カフェインを含む植物の古い利用痕跡はありますが、成分を目的として摂ったことや、実際の摂取量まで分かるわけではありません。
カフェインが発見されたのはいつですか?
1819年にルンゲがコーヒーから分離したことが知られています。これは成分として取り出した時期であり、茶やコーヒーを飲み始めた時期とは別です。
コーヒーはカルディが発見したのですか?
カルディの物語は有名な伝説です。最初の発見者がカルディだったと確定する史料としては扱えません。
古くから飲まれているなら、摂取量を気にしなくてよいですか?
歴史の長さだけで適量や安全性は判断できません。商品ごとのカフェイン量を確認し、茶、コーヒー、ほかの食品から摂る分も合わせて考えてください。
出典と確認範囲
日本の医薬品・医薬部外品と食品は、形が似ていても区分は同じとは限りません。リポビタンDは指定医薬部外品、エスタロンモカ12は第3類医薬品と表示されています。名称だけでなく各製品の表示を確認してください。
本文のリンク先は、考古学の研究論文、博物館、業界団体、企業の公式記録、公的機関の資料です。資料の種類を分け、遺物の分析結果、後世の伝説、発売元の記録を同じ強さの証拠として扱わないよう整理しました。参照内容は2026年10月6日に確認しています。
年表は主な出来事を選んだもので、マテやガラナなど各地の飲用文化を網羅していません。新たな考古学的発見によって、利用の年代や広がりに関する理解が変わる可能性があります。サムネイルは茶・コーヒー・カカオを組み合わせたイメージで、当時の道具や場面を再現した歴史資料ではありません。